「まあ、それは冗談ですが」 逢沢は中指でめがねを軽く押し上げると、口端を片方だけ上げて言った。 「あの冷血な会長が、だんだんと人間らしくなっていくのを見るのは嬉しいし、楽しいんですよ。」 そして、今までみたこともないような柔らかい笑みで、照れたように続けた。 「人を変えるんですねえ、恋は」 …その時、嘘でもそれを否定できなかった俺は。 妙な敗北感を、味わったのだった。