「文化祭?」


箸を咥えたまま、安藤が小さく首を傾げた。

午後の暑い日ざしが、日陰のギリギリまで迫ってきていて、肌にまとわりつく暑さに顔を顰めたまま、俺は手渡された弁当箱を開け、頷いた。


「……これからまた、生徒会が忙しくなる」


重苦しいため息を吐き出して、視線を落とす。
バランスよく盛り付けられた弁当に、少しだけ心が軽くなった。


…二ヵ月後に迫った、文化祭。

ついこの間知ったことだが、以前は安藤との勉強があるからと、副会長の逢沢が出来る範囲では俺の分の仕事をこなしてくれていたらしい。

だが、今回はそうはいかない。


…正直、面倒だ。


心の中で、ひとりごちる。



「そうか、もうそんな時期か……しかし生徒会はイベントとなると、いつも忙しそうだな。

何か、せいのつくものでも作ってみようか」


ぽつりと呟かれたその声に顔を上げると、考えこむように宙を仰ぐ安藤。


その姿に、目を細めた。

そんな優しさが、素直に嬉しい。

たとえ、特別な意識など、もたれていなくたって。




艶やかな長い黒髪に指を入れて、くしゃりと頭を撫でた。

大きな瞳と目が合う。

するりと、緩む唇から言葉が零れ落ちる。



「…ありがとう」






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