文子のマンションは白がベースのシンプルなデザインで、彼女によく合っていると感じた。
メモを頼りに307号室の前まで来る。
深呼吸。
暴れる鼓動を落ち着かせる。
もう俺に迷いはない。
チャイムを鳴らす。
中でかすかな音がする。
家にいるようだ。
『はい・・』
インターホンを通じて、久しぶりに聞く文子の声。
『‥‥‥‥‥‥‥‥文子。』
『!』
ドアの向こうの相手が俺だとわかると、文子は押し黙った。
20秒くらいの沈黙を俺が破る。
『・・・ちょっと、切らないで聞いて。』
もう一度、深呼吸。
『まず、学校から守れなくて、無力で、ごめん。つらい役回りさせた。』
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
『俺は・・文子を支えられるような器じゃないかもしれない。
それどころか、重荷だと思う。
でも、文子が他の誰でもなく今俺を愛してるなら、俺に寄りかかってほしい。
俺の事情とか何も考えずに、ただ頼ってほしい。
それが都合いい事だって、俺を利用してることになったっていいんだよ。
俺の人生狂わせるとか、考えないで。
あなたは、俺の一生で、たった一人の女なんだ。』
散った桜が足元で舞う。
『大人ぶらせてごめん。』
その瞬間、ガシャッとインターホンが切れた。
鍵の音がし、勢いよくドアが開く。
会いたくてたまらなかった人が、胸に飛び込んできた。
彼女は震えながら、嗚咽をこぼす。
随分前から泣いていたように、目や鼻が真っ赤でとても綺麗とは言えないくらいだが、
それがたまらなく愛しい。
やっとつかまえた。
『・・片方が転んだら、肩組んで歩くんだろ?』


