『……一つ、きいていいっすか。』




『?なによ。』




『このハンカチ、俺が使う前からしめってたんですけど…。』




『———————‥‥‥』







彼女は、困ったような顔でクスッと笑った。







『お母さんっできたっ逆上がりできたよー!』




奈美さんのもとに、さっきの少女が駆け寄ってきた。




『そー、よかったねぇ。みんなの前で明日おひろめしなきゃ。』



『うんっふふ』




汚れを何も知らないくったくの無い笑顔。




そして少女は俺の顔をじっと見て、母にこそっと尋ねた。




『ね、この人とさっきケンカしちゃったの?』




本人は内緒話のつもりだろうが、その声はこっちにも聞こえてきた。




奈美さんは、俺と目が合うと微笑んで答えた。




『ケンカしちゃったけどねぇ、もう仲直りしたのよ。
とっても優しいお兄ちゃんよ、ほら挨拶は?』




『そっか!えっと、こんにちは。』




少し顔を赤らめながら、俺に頭を下げる。




『こんにちは。いい子だね。』




俺は慣れた手つきで黄色い帽子の上からふわっとなでた。



少女ははにかんでうつむいた。





そして照れ隠しをするように、母親に向きを変え、悪気のない様子で尋ねた。



『パパとは仲直りした?』



それを聞いた瞬間、奈美さんの表情が少し曇った。




『したわよー、てか仲良しだってばっあんたは余計な心配しなくていーのっ』


そう言って奈美さんが少女をくすぐる。


キャッキャと笑い声が響く。