それから何度も電話をかけたが、文子はでなかった。


電話っていってもケータイとか持つ余裕なんてないから公園の公衆電話だけど。


文子は、もう俺に会う気はないのかもしれない。






俺は、どうするべきなんだろうか。











『………ヨシヒトくん?』





電話の扉によっかかって考えていると、誰かに呼びかけられた。



見てみると、少し派手な服装の女が探るような目つきをして立っている。

文子と同じくらいの背丈だろうか。



『……やっぱり!文子の彼でしょ!私あんたの写真前見せてもらってさあ。』

『……あの?』

突然話しかけられて戸惑いを見せると、相手もそれに気づいたようだ。
『あっごめんあたし文子の友達の松田奈美。』


松田奈美。何度か文子の話に出てきた事がある。
確か…俺と同じくらいの年でできちゃった結婚したっていう…





『レーイー!』



彼女が鉄棒を練習している女の子を呼んだ。


小学校中学年ほどの背丈。
鉄棒のそばには赤いランドセルと黄色い帽子。



逆上がりの練習に夢中になってこっちには気づかない。





『あーあ、まいっか。あれ、うちの子。』



『———・・。』



文子と同じ年で、もうあんな大きな子がいるんだ。




年の差を改めて実感した。





『ふふ、あの子私に似て見栄っ張りだから、居残り練習さぼって秘密で特訓するんだってさ。見てよ、顔真っ赤。』




…この人がこうして子供を生んで、たくさんの時間を子供に費やせるのは、夫が働いて経済も安定しているからだろう。


自分はどうなのだろう。


いろんなことが、普通じゃない。



勉強と平行して進められる最大限の時間バイトをして、やっと自分の大学の金をなんとかできるくらいだ。

人を養うなんてとてもできない。


あの施設にとらわれている以上、そばにいる時間も少ない。


俺はむしろお荷物でしかないのだ。