雪は溶け、桜の季節がやってきた。


校庭の淡いピンクが風にゆれている。さぞかし文子に似合う事だろう。

不思議だな。毎年春は来るのに、桜をこんなに綺麗と思ったのは初めてだ。


そう思って少し自分を笑った。






* * * *


始業式が始まった。

俺は教師の列を眺める。

目で探すがなかなか文子の姿が見つからない。
生徒達の後ろにいるのだろうか。

しばらく会えなかったから早く顔を見たい。


胸を高鳴らせそわそわしているのをよそに、式は進行する。




『えー、次は校長先生からのお話です。』


もうすぐ定年になる校長が、マイクの高さを調整し、ゆっくりと口をあけた。



『えー、まずみなさんにお知らせがあります。静かに。』



そんな一言の命令に従うほど高校生は素直ではなく、まだところどころで笑い声が聞こえている。



校長は厳しい表情をして続ける。



『えー、二年生の古文を担当していた沖野文子先生が、この学校を去りました。』