『・・いーんですか、生徒ここに入れて。鍵わざと落とすし。』



俺は先生のそばにある、おそろいのものを見て言った。



『あら、わざとなのはお互い様じゃない。』




『え?』



『さっきの古文の訳。ホントはわかってたでしょう。君の頭で、あの程度のことがわからないはずがないわ。』



『‥‥‥‥』



図星をつかれた俺は決まり悪くなって黙り込む。




『いつもここに来るんすか。』



話題を変えるつもりで尋ねると、彼女は遠くを見ながらうなずいた。




『‥‥‥あたしここでしか泣けないんだよね。』



思わず隣を見る。



『ここでしか弱い自分、見つめられないからさ!ふふ。』


どうしてこの人は笑っているのだろう。


そう思っていると、二人の視線が重なった。

その瞬間、ふっと笑顔がゆがんだ。





彼女へと動こうとする右手を、俺はもう一方で押さえる。





『‥‥‥なんで、俺を呼んだんですか。』


『簡単よ。』


先生は鼻をすすって答える。



『あなたにも、この景色を見せたかった。この場所が必要だと思ったから。』





『‥‥‥‥‥。』






『知ってるのよ。身体の傷以上に、あなたのもっと大事なところ、ボロボロなんじゃないの‥‥?』



『————‥』





『まだこんなに若いのに・・自分のために生きることを知らないなんて・・。』