その時、ワカマツは俺に気付いた。
俺は思わず、聞いた。
『先生は、悪い人なの‥?』
その時のワカマツの顔は、今でも忘れられない。
何十年分の激しい憎悪を向けられたようだった。
そして、笑って言った。
『きみに何が善くて何が悪いのかなんてわかるのかい?
本当の事を教えてあげる。
何できみのお父さんやお母さん、園長がいなくなったと思う?』
俺は声が出なかった。
『お前の事が嫌いだからだよ。』
* * *
俺は扉をノックする。
『嘉人です。』
どうぞ、と声がするので中に入る。
仮面を外した男がそこにいる。
『今日は帰りが遅かったじゃないか。』
『図書館に寄っていました。』
『僕にかくれて何をこそこそしている?』
『何もしていません。』
近づいてくる。
『黙れ。』
目を閉じると、腹に激痛が走った。
床に転び、見上げると、その顔を踏まれる。
『俺が間違っているか?え?』


