すらっとした高い背丈。シンプルなデザインの紺のスーツ。高すぎず低すぎないヒール。肩ぐらいまでのサラリとした黒髪。

どんなに平凡なものでも、彼女が身につけるとたちまちに輝きを持つ。
こういう人を、本当の美人と呼ぶのだと思う。


彼女の名は沖野文子。
このクラスの国語を担当している。



『………ふはっ嘉人ってわかりやすいよなぁ。』

『何が』


琢磨が心底楽しそうにして俺の肩に手を置いた。


『おまえがじっと一人の人間見つめることなんてあの先生以外ねーよ?』



『何が言いたいんだよ』



『確かにあれで29には見えねーよなぁ。まったまにはクラスの女子にも目ぇ向けてやれよ、憐れだからさ!』



『…没収。』





『え?あぁーっ悪いっ悪かった!だからもうちょっと貸してっっ』



『こーら。藤田くん自分の席早くつく!じゃぁ今日は藤田君中心であててこっかなあ』


『え゛ーっ!』


あわてる琢磨を見て、先生は満足そうに笑った。


きちっとした態度に対し、表情はいつもやわらかい。
そしてやはりどこか大人の色気を感じる。

髪を耳にかける仕草や、体のライン、隣を通った時のほのかに甘い香り。

しかし決してわざとらしいものではなく、本人も見せるつもりがないのだとわかるくらいの、ひそやかなものだ。




頬杖をついて見ていると、次の瞬間それに気付いた先生がふわっと微笑んだ。


思わず顔を浮かした。


今まで何度も目が合うことがあったが、今の笑顔はそれが偶然ではないことを物語っているように感じた。

女に対して、胸の熱さを感じたのは初めての事だった。