それは色が白くて、背が高く、どこか影の薄そうな男だった。
いや、彼にはそんな簡単な外見以上に、何か決定的な違和感があった。
彼がとっている歩くという動作は、何を目的にしていたり、何かを見ながらだったりすることはない。
余分なエネルギーを使わずに、ただ、歩くという動作だけを全うしている。
実際どうかはわからないが、少なくとも私の目にはそう思った。

その姿は、なぜか桜を見たときの気持ちを思い出させた。



『あれ、新しい国語の先生。』

ユリが耳元でささやく。

そうなんだ、と言葉にしてやっと、視線を元に戻すことができた。
「ごめん、途中にしちゃって」と言って3人もこちらに向かせる。

3人に気をつかっているのか、その男におかしく思われないようにするためなのか、どちらかは自分でもよくわからなかった。

再び相槌を打ち、マキの「きょとんと教頭をみる校長」のものまねに笑いながらも、視界のすみではどんどん自分に近づいてくるその姿をとらえている。

どうしたというのだろう、知らない男のことなどどうだっていいじゃないか。


私は再びそちらに注意をもっていかれることがないように、「おもしろすぎてお腹痛いよもうー」と言って抱えるようにして下を向いて笑うことにした。

しかし次の瞬間、自分の目の前にスーツと革靴をはいた足が並んだ。