ドアを開けてから母親が出て行くまでの数分間を何度も頭の中でリピートする。胸がどんどん重くなっていくのを感じる。


そんな時、場違いに明るい携帯の着信メロディが鳴った。





『おーーーうい!!麗、今俺どこにいると思う?!』


受話口から、あのお調子者の幼ななじみの声がキーンと響いた。


『・・・・・。』


『麗ー?』


『・・あぁ、ごめん。なんか声、出なかった。』


『・・・・・・。』



『どうしたの?』



『え、いや、今たまたまお前の家の近くいるから、さ。
・・てか、麗ちゃん、君今泣いてますね。』


亮太の声が急に落ち着く。


小学校のグラウンドの風景が思い浮かんだ。

彼はよく、そそっかしく転んで泣いている私を慰めてくれた。

小さいながらに、一生懸命守ってくれた。

気の利いた言葉を言えない代わりに、
絆創膏を一枚そっと差し出した。その時の彼だった。




『泣いていません。』



高校生の私は、わざと涙を含む声で言った。

見栄と身体だけ大きくなった私は、気づいて欲しいと静かに訴える弱さを隠せなかった。




電話が切れると、チャイムが鳴った。



扉を開けると、見慣れた子犬が息を切らしていた。