三分ほど後、服を着た母親と顔を赤くした40〜50歳のオヤジが出てきた。


『レイ今日は早いじゃない。』

『お母さ…』

『幸司さん表でちょっと待っていてくれる?』

『あぁ。』

「幸司さん」が私にぺこっと軽くお辞儀をしてそそくさと出ていく。



母親を見つめる。

相変わらず目を合わせずに仕事に行く支度をする。


『今・・今の誰。』

『……客。』


『・・いつから?』

母はため息をついてあっけらかんと答える。

『えー?いつからだったっけ、大分前からよ。』


わなわなと唇が震えだす。


『あ、心配しないでよ、あんなオヤジあんたの父親にする気ないし、別に他の男とも…』

『ふざけないでよ!!!』

声に涙がまじる。


『あー…もううるさいわねー、仕事よ?これも。あんたにも好き勝手やらせてあげてるじゃない。じゃぁ行ってくるからねっ。』

『ちょっ…』


乱暴にドアの音が部屋に響く。

二人の足音が遠ざかっていく。



私は一点を見つめたまま動けない。



離婚以来、母親へ怒りを表した事なんて初めてに近かった。

いつもあれだけ感じてた、ある恐怖を忘れるくらい、大きなショックだった。



―ダンッ


乱暴に床を殴る。


―ダンッ…ガッ…ダンッ


どうしようもなくただ打ち付ける。


拳の側面が紫色に変わっていく。



『ハァッ…ちくしょ…。』


ひっくり返ると、頭にバッグがあたる。


中にはさっきもらったコロッケパンがあった。




一口食べる。


ソースの匂いと冷めたコロッケの味が口いっぱいに広がる。



次の一口をかぶりつく。


もう一口。

もう一口。



どこからともなく、呻きに近い声が出てくる。


・・自分の親にこれ以上、失望なんか、したくない。



途中から涙が交ざって少ししょっぱくなった。