『ありがと…たか…せ。』


少し照れるので不自然に顔を指でかいた。

すると彼が一呼吸おいて、口を開いた。




『お前、ここが必要みたいだし。』


思わず、え?と聞き返す。


『いつも疲れた顔してる。』


—あいつと同じ顔…



『!』

トイレでカナに言われたセリフを思い出す。

“あのこ達といて…楽しい?”


同じように、心を見透かされた感覚が襲い、焦る。


でも、高瀬が私のそんな表情まで見ていてくれた事が嬉しかった。


少しだけ、この人に頼ってみたいという気持ちが生まれた。





『なんかいろいろ…やりきれない。…です。』






口にしてから、はっとした。




親の離婚以来、初めてこぼした弱音だったのだ。


『あ・・・・・。』





涙がこみあげてくるのがわかる。

こらえきれずに、蓋を開け、次から次へと溢れだす。



『…ごめんなさ…こんなつもりなんて…なかったのに…。』


同情を誘っているようでなんだか恥ずかしくて、顔を背ける。



『ためこんでるのに気付かないくらい、必死だったんじゃねーの?』


隣から聞こえるそのセリフにまた泣けた。



人の前はおろか、一人の時も泣くことはなかった。

離婚の日…いや、もっと前から。

泣きたいとも思わなかった。

どんなに涙を流しても、状況は無情にも何も変わりはしないから。


悲しいとか、そういう感情は見ないフリをした。

いつの間にか、そうすることに慣れていた。


見たってなくならないし、
人に話してその感情にじかに触れられたらもっと膨らむのは、わかってたから。





でもこの人は、私の嫌いな人間達と、何か違う。


じかに触れられても、同時に、すごい力で癒されていく。


もしかしたら、私よりも誰よりも、悲しい事を知っているのかもしれない。