* * * *



『はは‥‥』



ずっと黙っていた高瀬が、手で目を覆って、泣いてるように笑った。


かけよってきて、私の頭をぐしゃぐしゃにする。


私も、鼻を真っ赤にさせたまま、笑った。






『それじゃぁお二人さん、原点に戻りますか。』


彼は、車のキーを持ってそう言った。

私と母は顔を見合わせた。




* * * *



『何年ぶりだっけ‥。』


『私はこないだ少し来たけどね。』

『そうなの?』




父が一人で数年を過ごした実家は、歩くとホコリが舞うのが肉眼で確認できた。

それぞれ思い出にひたりながら、部屋をまわっていく。


私は子供部屋の隅に腰をおろした。

ドアを見つめる。

頭に血が上った父親に、このドアを開かれるのが恐くてたまらなくなったのは、いつからだったか。

階段をのぼってから扉を開かれるまでは、時限爆弾のようで、いつも息をひそめておびえていた。


その前までは、お母さんが必ず二回ドアをノックして『ご飯よー』と知らせにくるのが楽しみだった。


『————‥‥』


当時を思い出しながら、導かれるようにキッチンにむかう。

すると、本当に何か煮込んでいる香りが漂ってきた。