『あれから嘉人が、毎日うちにご飯持ってきて、あんたの様子をね、逐一報告するの。

今日はこのくらい食べた、こんな事言ってた、夜はこのくらい寝た、とか。

最初は責められてる気しかしなくて、耳をふさいだ。

持ってきてくれたもの、ひっくり返したり、彼をぶったりした。

それでも次の日同じように来るの。

それで昨日、「母子手帳どこ?」なんて聞いてきて。

手帳の写真をさ、私に見せるのよ。

‥‥可愛かった、愛しかった。

「あんたはこの子の首しめて殺そうとしてんだぞ、その手で。」

そう嘉人に言われて。

返す言葉がなかった。』


高瀬を見ると、彼はベッドの上であぐらをかいて黙っている。


『もう一度、本気で考えたの。
本気になったら、もうそれは簡単だった。

私の人生は、彼に殴られたときに終わったんじゃない。
私が、終わったと思った瞬間に終わったんだ。

今さら気付いたら、いてもたってもいられなくなって、ここにきたの。


‥‥あんたに‥私と同じ道歩ませるところだった。
同じ思いをさせてしまった‥。』


とぎれとぎれにそこまでいうと、彼女の手の甲に、ぽたぽたと雫が落ちていく。

そして、私の目を見た。



『ごめんね‥
あんたが、私を、必死に、想ってたの、ちゃんと伝わってた‥なのに、
昔の自分を重ねて‥

謝っても何をしても消えない、傷を、あんたにもつけちゃった‥。』


不覚にも、自分の目にも何かがこみあげてくる。


『‥うそ。』

思わずつぶやく。

どちらかと言うと、自分に言い聞かせていた。


『ごめんとか、そんなん、嘘だよ。』