『私は、彼を愛してた。彼との子供であるあんたも。本当よ。

でも、彼に愛されているかは、何度身体を交えても、結婚しても、あんたを産んでも、不安で、不安でしかたなかった。同時に期待してた。
いつか、心の底から愛し合えて、結婚前の気持ちも告白できるかもしれないし、なんて事も。
いつのまにか、神経すべてがそこに集中するようになった。
何をしててもそのことを考えてしまうくらい。

だから‥』

彼女は目を伏せた。


『初めて、あの人に殴られた瞬間、世界が真っ暗になった。

彼に対する気持ち全てを遮断されて、1ミリの期待も許されない気がした。


すぐに謝られたけど、心が完全に折れて、それ以前のように彼を見れなくなった。

でも、小さいあんたをみてたら、全部放棄できないと思って、いい母親をつとめてた、最初は‥。

だけどあの人の暴力は増えるばっかりで、無理をすればするほど、どんどん心がすり減ってく気がした。』


アルバムの、ページをめくるごとに写真の中の母は、眉をひそめて笑うようになっている。


その表情で、思い切り私に顔をくっつけ、父に腕を一方的に絡める姿がなんだか痛々しいほどだ。



『その上、唯一応援してくれていた文子も死んだ。

もう、生きてる心地がしなかった。



どこで間違えたんだろう。

あの人が、手を振り上げなければ、いや、結婚しなければ、いや、‥あんたを産まなければ‥


そうやって、私は愛してたはずのもの達に責任を押しつけていった。


その結果がこれよ。

みんなをボロボロにさせて、今度はあんたをも失いそう。

正直、もうどうでもいいと思った時もあった。

でもね‥』

そう言って彼女は目をあけて、高瀬の方を見た。