親に捨てられ、ひきとられた場所でいじめられていた主人公ワタル(15)は、それに耐えるため幼い頃母親がいつも買ってくれたチョコレートを食べ続ける。
日に日に醜くなっていき、ついに倒れたのをいい機会に精神病院に送られた。
そこで出会ったのが、登校距離のあげくワタルとは逆に拒食症になって入院したミサキ(14)。
隣同士のベッドになった二人は、まる一週間、一言も言葉を交わさずに、狂ったお互いを見ていた。
ある夜、雨が降った。
6つのベッドの並ぶ病室を繊細な音達が支配した。
二人は眠れなかった。
ミサキが、ぽつりとつぶやいた。
「雨、好き。ぢかに、こころに、触れる。」
ワタルは彼女に視線を移した。
頬はこけ、肌の色はくすみ、骨と皮しかないようなミサキが、この上なく美しく見えた。
「代わりに、泣いて くれたから だよ。」
ミサキが驚いてワタルを振り返る。
二人は、巨人と子供のように身体の大きさは違えど、窓の外を見つめる気持ちは同じだった。
それに気づくと、二人は見つめ合ったまま泣いていた。
翌日から、ワタルは彼女が知りたくてたまらなくなった。
しかし人との近づき方をよく知らず、まごついている。
そこにミサキから、ノートを渡される。
1ページにミサキの自己紹介があった。
ワタルは夢中になって読み、次のページに自分の事を書いた。
起きている時間はずっと読んで書いた。
胸が弾んだ。
ワタルはもうチョコレートがなくて暴れることはなくなり、ミサキも食べ物が喉を通るようになった。
ノートは病室が離れても月日がたっても2冊3冊と続いていった。
お互いの過去も、好きなものも、嫌いなものも、知り合えた。
回復はめざましいほどになった。
ついに退院の時が来た。
それは幸せな時間の終わりを意味した。


