落ちたものを見つめていると、カナが私の頬を思い切りぶった。

打たれた部分が焼けるような熱を持つ。


今度は泣きながら抱き締められる。


『死ぬなら、私を刺してから死ね!!!』



私は茫然としながらその肩をつき離す。

カナはまた抱き締める。

何度離しても、彼女は私を包み込む。

そういえば、彼女はいつもそうだった。




力なく呟く。

『なんで‥なんでいつも、生きることが正しいの‥?』

目が合った亮太もいつのまにか涙している。



『俺たちが止めるのは、俺たちの気持ちまで「無」とみなすからだ。
ちゃんと見ろよ。‥お前に叩かれようが刺されようが、抱き締める自信のある人間を。その愛を。』

『————‥‥‥。』



その言葉を信じて、私はまた蝶にあこがれるとする。

じゃぁ、いつまで?

次はいつ背中を向けられるの‥?


ただならぬ様子の私たちを通行人が怪訝な顔で見ていく。


愛は夢。
いつかさめるもの。




私はしばらく黙ると、彼らに『ありがとう』とつくろって、アパートにむかってゆっくり歩きだした。

『電話出てね。』とか『学校来いよ。』とか、いくつも言葉が追い掛けてくる。
その都度うなずいた。


不安そうな視線達が、いつまでも背中にささっていた。