数日後のある朝、私はトイレでショーツについた赤いシミを見つめて沈黙した。

こんなに時間がとまったようでも、身体の中はしっかりめぐっているのだ。

いっその事、すべての血が出ていってしまえばいいのに。私にとっては皆不純物だ。

そんな事をぼんやり考えていると、トイレの外から高瀬の声がした。
『今日は何か足りないものないか?』

今最も必要としているものを高瀬に頼むわけにはいかないので、ないと答えた。

『じゃぁいくよ。』

私の頭に触れないかわりに、彼は扉をコツンとした。



* * * *


Gパンをはき、スウェットの上にコートをはおり、赤いマフラーをぐるぐる巻いて扉を開ける。

ぴゅうっと新しい空気がふきつける。
空の色がやさしい。

『‥‥あ。』

そういえば、鍵がない。
他人の家なので、開けっ放しで出ていくのは気が引けた。

高瀬に電話をすると、5、6回の呼び出し音が『どうした?』という声に切り替わった。

『外に、出る。』

そう言うと数秒の沈黙が流れた。

『どこに‥行くんだ?』

『コンビニ。』

本当に?と言った感じで疑っているのがわかる。

『‥急に甘いものが食べたくなったの。鍵どうすればいい。』

彼はまた少し考えた後、死に行くのならこんな電話もしないだろうと思ったのだろう、『ポストに入ってるから』と教えてくれた。


久々に吸う外界の空気はまだ変わらず冷えていて、しかしその分澄みきっていた。

風に身を任せてしまいたい衝動に駆られながら、コンビニに入った。


‥なんだかおかしいな。

この世から消えようとしている者が、寒さから身を守るためにコートを着たり、マフラーを巻いたり、生理用のナプキンを買ったり。

しっかりとここに執着している。


(このゴミ、別の場所に捨てなきゃな。)

そう思いながらそれに手を伸ばした時だった。