* * *
シャワーを浴びて髪を乾かさないままベッドに倒れこむ。
数日前の夜を思い出す。
髪からの水滴が彼の頬をつたった時、
彼が泣いているように思えた。
世界で一番美しいものを見た気がした。
『————・・・。』
胸が、きしむ。
タイミングを見失った。そう思った。
あの日、一瞬だけ、偽物でもいい愛を信じて、逝きたかったのに。
もう目覚めてからは1ミリも信じられなくなった。
信じられない、この世に期待したくない、
その想いに心は塗りつぶされた。
私はこの静かな海で、「その時」を待つ。
だから、電話にも出ない。


