「ヴーーーーーーー」



カチャカチャと食器の音だけしていた部屋に、突然携帯のバイブ音が響いた。

サブ画面に「西崎華奈」という文字が表示されている。

しかし私は完全に無視して胃を満たす作業を続ける。


一分ほど鳴った後、音は静まった。


数分後、今度は亮太からの電話が鳴る。

それも応じない。


電話を無視しているだけなのに、2人の存在全てを否定したような気分になる。

それも毎日続くと、少し慣れてきてしまった。

高瀬もいちいち出なくていいか聞くのはやめたようだ。







私は食べるだけ食べると、箸を置いた。


『もういいのか?・・って言っても最初よりは食えるようになったか。』


・・そうでもないよ。
といった様子で私は首をかしげながら手を合わせた。



高瀬は私が残した分もたいらげると、食器を片して出かける支度を始める。

残しておいたらしき1人分のうどんをプラスチックの容器に盛り、紙袋にしまった。

『じゃぁ、先に寝てろな。』


『・・・・。』



あれから毎晩、彼は学校から帰宅して私と夕食をすますと、3〜4時間どこかに出かけていく。

行き先はなんとなく予想できるのであえて聞かない。



彼はいってきますと言う代わりに必ず私の頭に手を乗せる。

それに手を重ねるのが、私の「いってらっしゃい」の合図だった。