1本、2本、3本・・
彼のベッドの枕カバーから飛び出した糸をむしっていく。
葬式の後、着替えを持ってこの部屋に来て、今日で三日になる。
荷物をつめる私を、母は黙って見つめていた。
高瀬も、黙って私を中に入れてお茶を出した。
全てが淡々と過ぎていった。
糸は引っ張れば引っ張るほど、つーっと長く出てきて、枕本体の地肌が顔を出す。
そこに出した糸を丸めてつめこんだりしていると、
「お前ネギ大丈夫な人?」
という声が台所からした。
うなづくと、トントントンと、規則的な音が部屋中に響いた。
一人用の小さなテーブルに野菜が沢山入ったうどんが並んだ。
「味の保証はしないけど食わないよりマシだ。」
そう言って彼は箸を渡し、腕まくりを戻した。
毎回そんな風に謙虚に言うが、男にしては高瀬の料理は大したものだった。
食べる事は欲していないが苦でもなかったので、黙っていただいた。
だしの効いたスープが喉を通ると、一気に体温が上がった気がした。
蒸気で顔中の毛穴が開くのを感じながら、少しずつ胃の中に入れていく。
「うまいか。」
そう聞かれ、こくりとうなずく。
すると彼はなんだか幸せそうな顔をするので、不思議な気持ちになった。
彼の部屋で、彼の手料理を食べ、彼の隣で眠る。
少し前の自分からしたら夢のような話だろう。
しかしその事実さえ、今は色あせて見えた。
ピントが合わないモノクロ映画。
今私が存在しているのは、そんな世界だ。
彼のベッドの枕カバーから飛び出した糸をむしっていく。
葬式の後、着替えを持ってこの部屋に来て、今日で三日になる。
荷物をつめる私を、母は黙って見つめていた。
高瀬も、黙って私を中に入れてお茶を出した。
全てが淡々と過ぎていった。
糸は引っ張れば引っ張るほど、つーっと長く出てきて、枕本体の地肌が顔を出す。
そこに出した糸を丸めてつめこんだりしていると、
「お前ネギ大丈夫な人?」
という声が台所からした。
うなづくと、トントントンと、規則的な音が部屋中に響いた。
一人用の小さなテーブルに野菜が沢山入ったうどんが並んだ。
「味の保証はしないけど食わないよりマシだ。」
そう言って彼は箸を渡し、腕まくりを戻した。
毎回そんな風に謙虚に言うが、男にしては高瀬の料理は大したものだった。
食べる事は欲していないが苦でもなかったので、黙っていただいた。
だしの効いたスープが喉を通ると、一気に体温が上がった気がした。
蒸気で顔中の毛穴が開くのを感じながら、少しずつ胃の中に入れていく。
「うまいか。」
そう聞かれ、こくりとうなずく。
すると彼はなんだか幸せそうな顔をするので、不思議な気持ちになった。
彼の部屋で、彼の手料理を食べ、彼の隣で眠る。
少し前の自分からしたら夢のような話だろう。
しかしその事実さえ、今は色あせて見えた。
ピントが合わないモノクロ映画。
今私が存在しているのは、そんな世界だ。


