車の中でしばらく待っていると、喪服に身を包んだ母が乗り込んできた。

無言で目をふせている彼女は、一気に老けたように見えた。



父が勤めていた会社の男の人達が、慣れた様子で手を合わせていく。



初めて見る父方の祖父は、息子を追い詰めたのはどいつだ、といった様子で泣きながら目を光らせていた。

『あなたどうしたの?』

その隣で祖母は車椅子に乗ってにこにこと笑っている。

『ねえあなたどうしたの?』

彼女は遠くを見ながら何度も同じ質問を繰り返した。



小学生の頃父が話してくれたのだが、この二人は本当の両親ではないという。

二歳頃まで虐待を受け施設に入り、そこから養子としてこの夫婦にひきとられた。


私たちと目が合うと、祖父が近づいてきてもどかしそうな表情を浮かべた。

『支えてやる家族がいたらよかったんだよなあ』


母はびくっと顔をこわばらせる。

『私らも、あいつが高校生だったあんたと結婚するって喧嘩して飛び出していって以来、意地張り合ってなぁ。一人になったと知って、真っ先に帰って来いと、なんで言えんかったのか・・・』

彼は乾燥した拳を固くした。

祖母は頭を傾けて『もう、みんなしてどうしたのかしら』と微笑んだ。