ちょうど日曜日だったので、隣の駅の図書館に出かけた。


学校があったら誕生日に高瀬に会えたのにな。
そう思うと少し残念だが、カナや亮太からメールが届くと自然と顔がほころんだ。


いつものように窓側の席につく。

一日五ページと決めた英語の問題集を開く。


日差しが強いため、隣の受験生らしき人が、カーテンをひく。


そう、とても穏やかな日だった。

外気は冷たいが、風はさらさらしていて、太陽は私に微笑みかけている、そう錯覚するくらい。




午後五時、バイト先にむかうため、駅で電車を待っていた。

いつもより人が多く、混雑している。

するとそこにアナウンスが入った。


“えーお急ぎ中の皆様、まことに申し訳ありません。新宿駅で人身事故発生のため、中央線、電車が遅れております。”


『やべー会議間にあわねえよ、死ぬなら一人で死ねよなぁ。』

苛々した様子のサラリーマンが、後ろでもう誰にともなくこんな口をたたいている。


電車にあたるって、どんな感じだろう。

何かの本で読んだのだが、人には「生きたい」と共に、「死にたい」という欲求が本能的にあって、こうホームに立っているだけでふわっと吸い込まれそうになるのもそのせいらしい。本当だろうか。


ぼんやりそんな事を考えていると、携帯が震えた。

知らない番号だった。




『‥もしもし。』

『あ、もしもし、こちら新宿駅交番です。香坂奈美さんの娘さんの携帯でよろしいですか?』

かしこまった口調で、駅員らしき男が話す。
ああ、はい、と相槌をうつ。

『あの、さっきこちらの駅で人身事故があったのはご存じですか?』

『あ、はい、今アナウンスで‥。
———!まさかっ。』


『いえ、奈美さんは無事、今こちらの交番にいらっしゃいます。‥亡くなったのは、

あなたのお父さんです。』







何かで頭を殴られた気がした。



さっきまでホームの駅の隙間から見えていた夕日は、灰色のカーテンに飲み込まれてしまっていた。