それから数日後、三学期が始まった。


新学期早々机の落書きを消していると、突然視界が真っ暗になった。


『だーれだ。』

『‥亮太。おはよう。』

『へへっばれたか。なー知ってた?ヨウちゃんとヤスとリュウ、カナに告ったって。』


『別れ際に?すごー、やっぱカナもてんだね。』

『‥や、お前も人のこと言えな‥』

『ん?』

『いや、実はね、この学年の男子の間では〈麗派〉か〈華奈派〉かの論争がずっとありましてね。華麗コンビって有名よ、君ら。』

『は?!‥どうでもいいけどそのネーミングセンス、想像を絶するわ‥。』

『まーまー!そのくらいおまえら人気あるってこと!
‥‥そんなのを女子も見てっから、こうして嫉妬してるんすねぇ‥‥毎日恒例だね、コレ。』

亮太が机に目を移してつぶやく。

『うん、まぁもう慣れたけど。やってるほうも飽きないのかねー、消しゴム代払えってのっ。ふふ。』

『‥‥カナ行っちゃったけど、オレら‥いや俺、守るからね。』

彼は自分の消しゴムで手伝いながら微笑む。

『‥ありがと。でも、心配ご無用。人間て結構図太いのね、私まだまだ平気だわ。』

ニッと笑うと、彼はうれしそうに背中をたたいてきた。

いつもの私たち。

もう、バランスは崩さないようにしなくては。


そして私自身も、もう崩れないようにしなくては。




暗い部屋に入ってしばらくすると目が徐々に慣れてくるように、私も割り切ったり諦めたりしているうちに、この曇った空みたいな世界にも溶け込んできたみたいだ。


そうして、私は17歳の誕生日を迎えた。