* *



『琢磨の事情は、なんとなくわかってたよ。』



しばらくして落ち着いたところでカナが切り出した。



『でも、乗り越える自信がないのなら、琢磨が選んだ道でいいって、思った。壁なんてこれからいくらでもあるだろうしね。』


『カナ・・。』

『私はとっくに覚悟してるんだよ・・?』



コットンで片方が隠れた彼女の目は、変わらず優しかった。

藤田先生はそれをしっかりと見据える。


『もう迷わない。

そばにいて・・守らせて。』


すると先生はカナの耳元で何かささやき、


そばにあった花のリボンを、彼女の薬指に巻きつけた。


カナはこの上なく幸せそうにはにかんだ。




* * *





そのときだった。


一人の女性が隣のベッドに運ばれた。

カナはチラッとそちらを見ると、言葉にならない声をあげた。


その人もカナをみて口を手で覆った。


その瞬間、カナの母親だと悟った。


彼女は全身に暴力をふるわれた後、右足を二箇所刺されていたが命に別状はないという。

お互い、殺されたかもしれないと思っていたのだろう。何度も抱き合っては手でさすり、お互いの身体の温度を確認しあっていた。