『あんた今どこ?』
『‥‥家』
『私行くよ、道教えて?荻窪駅だよね?』
『いや、いいの、家はちょっと‥といって外に出れる顔してないし‥
明日学校で会うし‥ね!』
今すぐ駆け付けたい衝動にかられる私をカナがさとすように制す。
一時間ほど話をすると、電話の向こう側から何やら声が聞こえて、
カナが『親が呼んでるからいくねっ。』というのでそこで電話を切った。
もっと話をきいてあげたかった。
いや、もっとカナとつながっていたかったのかもしれない。
同時に、『親が呼んでるから』という言葉にほんの少し嫉妬を覚えた。
後ろから聞こえた声は父親らしき人のものだったから。
テディベアを見つめながらそんなくだらない思考をかき消した。
————その時早く気付くべきだったのに—————
* * *
翌日、カナは学校に来なかった。
担任は風邪だという。
藤田先生のこと、本当にショックだったんだ。
いじめよりもなによりも。
そう思って、その日はただただ心配だった。
「大丈夫?」というメールには、
「平気!風邪引いちゃったよー↓☆ありがとう!」
と返事がきた。
しかし、次の日も、その次の日も、カナは学校に来なかった。


