『‥ねぇ嘉人。』


『‥ん?』


『あなたはまた、何もできないとか考えてるかもしれないけど、それは違うからね。
すでに支えられてるの。いるだけで、もう力になってるの。

確かに、あなたとこういう関係になってなかったら、今の学校にも行かなくてすんでたかもしれない。でも、そんなの私望んでない。この壁乗り越えるに値する恋愛なの。
あなたとの出会いは、それくらいの奇跡なの。
‥あ、やーね、この歳してキセキなんて言ったりして‥、ふふ。

‥あ、ねぇもう0時まわる‥‥』



俺は素直に彼女の言葉を喜んでいいのか迷った。




どうにかして止めるべきか‥


彼女の意志を尊重すべきか‥わからなかった。



————その答えがわかるのは、もう少し後のこと。——




しかし、とにかく彼女をあたたかい愛で包みたい。



その気持ちが先走って、気付けば彼女を再び抱き締めていた。




そのとき、時計が0時を刻んだ。





俺は無言で指輪を渡し、


目を輝かせる彼女の指にそれをはめて、


キスをし、


自分の指を絡め、


倒れこんだ。





彼女が望んでいないことは、さっきの話からわかっていた。



だけど俺は、自分を納得させるために、抱いた。






どうしてだろう。



彼女を思う気持ちが一番のはずが


彼女を思っての行為のはずが



彼女の何らかのバランスが崩れていく音を、

俺は聞くことができなかった。





———今さら、耳鳴りが止まない———