嫌な沈黙が、しばらく続いた。


俺はその間、そのスーツを見つめながら全てを悟った。





『ふみ‥』
『ごめんなさい。』




彼女は弱々しい声をしぼりだして謝る。



身体は小刻みに震えている。



俺の鼓動も暴れ、冷たい汗が首筋を流れる。




『とりあえず‥‥部屋‥はいろ‥』



『‥‥‥‥ん‥‥‥』




パタンと、静かに扉がしまる。


どこからかおいしそうな匂いがする。


テーブルの上にはワイングラスが二つ用意されている。



それを横目で見つつ、ソファに座った。




『‥‥‥‥‥‥‥‥。』




再び襲う沈黙。



文子は、俺の手とかその辺り、ただ一点を見つめている。



俺は動揺を隠せず、視点が定まらない。




『‥‥いつ‥‥。いつから‥‥‥‥』



自分の声が少し震えている。

文子は瞳を動かさない。





『今の高校‥入ってすぐよ‥』



そのまま文子はぽつりぽつり、語りだした。





教室で新しい担任として教壇に立ったその日に、石を投げられたこと。


それから毎日何らかの嫌がらせや侮辱が待っていること。


クラスに一人いじめられている子がいて、その子の代わりになれるならなる覚悟をしたこと。


毎日服を汚されるので、いつからか予備を持っていくことにしたこと。


髪を切られたこと。

手をペンで刺されたこと。

顔にスプレーをかけられたこと。


嫌がらせは日々エスカレートしていること。


他の教員に助けを求めても相手にされないこと‥‥。