待ち合わせの時間までに、毎日のようにショーウィンドウを眺めていたジュエリーショップに立ち寄る。



『このリングを。』



ドラマで見るような、リングケースに入れてもらった。

ぺリドットは光を放つ。俺たちの光。


大金を出す手が震える。


そうして手にした小さな宝石のリングは、その金以上の、かけた時間以上の重みを持っていた。




どうやって渡そうかな。
なんて言おう。
どんな顔するかな。

文子を想って自然と笑みがこぼれる。



店員がそんな俺を見て、
『大切な人が喜んでくれるといいですね。』

と、微笑んだ。


少し恥ずかしかったが、にやける顔を引っ込めることはできず、
『はい・・!』

と答えた。




* * * *





文子の家の前にくる。

約束の時間の30分前に着いてしまった。

まだ帰ってきてないようだ。

そういえば夏期講習があるとか言ってたもんな。




しばらくすると、コツコツとヒールの音が聞こえた。




『・・・文子』



以前着ていたような白の清潔なスーツ姿の彼女。



『・・嘉人、早かったのね。』


『へへ、何か待ちきんなくて。あれ、また髪切ったんだ。』


『ん、夏だしね。』


『ショートも似合うなぁ。でも会うたび短くなってねぇ?』


『ふふ、この方が若作りしてない感じでしょっ』




文子は笑う。

しかし、顔はひどく疲れている。




『———・・・。』



俺は、荷物を置いて、文子を抱きしめた。





『…ちょっと、やせた…?』




『…気のせいよ、…会いたかった—・・。』





文子も荷物を離し、俺の背中に手を回す。



久しぶりに重なる唇。




顔を離すと、文子の瞳に吸い込まれそうになる。

もうすぐ30だってのに、なんて綺麗なんだ、この人は・・。





もう一度、大切に抱きしめる。