一つはボク用で、もう一つは愛海の使うものだった。


 二人で一緒にいられることが、ボクにとっても彼女にとっても一番気分が休まるのだ。


 だから、互いの部屋の洗面台にはコップに歯ブラシが二本差してあって、ボクが仮に愛海の部屋を訪れたとしても、ブルーの歯ブラシがちゃんと置いてある。


 お互い愛情が通じ合っている証拠だった。


 洗顔フォームで顔を洗い、携帯している化粧品で軽くメイクした愛海が、ボクを追うようにして付いてきた。


 ボクたちは手を繋ぎ、ゆっくりと歩き出す。


 ボクはその日、綾井という教授が行う授業を受けないといけなかった。


 綾井の講義は必修であるにも拘らず、全く面白くなくて、岸川先生の日本文芸特講とは大違いだ。


 そのくせ、出席だけはきちんと取る。


 ボクも、そして同じ学部学科にいる学生は誰もがこの綾井の講義を嫌っていた。


 大学でも教授の査定が出来る時代である。