ボクも愛海も今日は授業が入っていて、互いにのんびりとは出来ない。


 お互い必修科目である日本文芸特講が昼過ぎの三限目にあるからだ。


 ボクたちはこの特講――特別講義の略だが――の担当教官である岸川先生の話は好きだった。


 岸川先生は出席などは一切取らずに、


「来たい人はおいで」


 と言っていた。


 そしてとても深いお話を披露してくださる。


 いわゆる文芸の原点的なものを語ってもらえるのだった。


 愛海は作家、しかもプロである職業作家を目指している以上、文芸の基本だけはしっかりと勉強しておきたいらしい。


 それにボクも岸川先生の話はどこか下世話で、面白いと感じていた。


 つまり互いに、これだけは――と思える授業がここ悠洋大にもあるのだ。


 たまたま岸川先生の講義がそれであったというだけで……。