アナタはどうしてここにいるの?
この場所に立っているの?
なんでもいいから、蜘蛛の巣のように張り巡らされた線路の中から、適当な列車に乗り込んで、
行き着いてみたらこんな町だった……
……そんなところだろうか。
きっと、賑わう街の喧騒に疲れたのだろう。
頭の中で、勝手な憶測を巡らせる。
わかってる。
わかってた。
アナタはずっとここにいるわけじゃない。
いるつもりはないってこと。
だから私は、アナタの元へ歩み寄り、何の躊躇いもなく声を掛けた。
どうせ二度と出遭わぬ人ならば、恥ずかしさなど感じる必要はないと思ったから。
私は、自分自身の手で、古びた籠の扉を開ける。
私は、空を見てみたい。
一度だけでもいいから、霧に覆われた道の先を見てみたい――
いきなり目の前に現れた私に、アナタは驚いた顔を見せる。
だけど、冴えないこの町に溶けきった私を瞳に映したアナタは、すぐに余裕の表情で微笑む。
聞き慣れない甘い言葉に、味わったことのない感情に、
私の頬は熱くなり、たちまちその色を変えた。
簡単にアナタの口から滑り落ちてくる、何の気のない言葉ひとつで、
私の体に埋め込まれた小さな胸は、煩いくらいに高鳴る。
……自分の幼さを思い知る。
最初から、私に勝ち目なんてなかったみたい。
出逢った時から、アナタはいつも私の前にいたんだ――

