「おはよう」

シロナは僕の顔を覗き込み、くすくすと笑いながら言った。

「……おはよう」

と僕は返した。

窓の外を見ると、いつの間にか飛行機は見知らぬ滑走路に滑り降りていた。

ロンドン郊外にあるヒースロー空港に着陸したのだ。

「おかしな夢を見たよ」

と僕が言うと、「そうね」と言ってシロナはまたくすりと微笑んだ。

「知ってるのか」

「何を?」

「山猫のこと」

「そうね。知らない仲じゃないわ」

「だろうね」

僕はようやく立ち上がった。

ロンドンの夕日が幾重もの帯となって機内に差し込み、最後に二人だけとなった僕とシロナを優しく包み込んでいた。

僕の人生初のフライトは、そのようにして終わりを告げた。