くだらないとは思わなかった。

実際のところ、それはそれでいい暇つぶしにもなった。

僕は夢を見て、翌朝送られてくる絵はがきの写真と消印を確認し、紅茶を淹れる。そうしてテラスに世界地図を広げては、彼女の居る街をイメージし、一人で旅に出た気分を味わうのだ。

ただ、だからと言って「彼女」を探そうとは思わなかったし、何より僕は結局ここに《とどまり》続けた。

『捕らわれてしまう』とバクは言ったけれど、一年経っても変化はなかった。二年経っても何一つ変わらない。

何も変わらないまま、毎年一枚ずつ絵はがきが増えていく。

変化らしい変化と言えば、せいぜいそれくらいのものだ。

もっとも、僕が勝手にそう思うだけで、実は何かしら変わっているのかも知れない。

もしかして僕は何かの病に蝕まれていて、そのうちこの部屋から一歩も外に出られなくなるのかも知れない。

だけど、少なくとも今の僕にとって、それは些細なものでしかなかった。

現に十年経った今でも僕はこうして毎朝ベッドから起き上がり、歯を磨き、コルクボードを眺めている。

何の変化もない。

ありふれた日常の繰り返しだ。