それ以来、「彼女」は年に一度僕に絵はがきを寄こし、そのたびに僕は決まってあの日の夢を見るようになった。

シャーペンの芯で終わる、あの忌まわしい悪夢だ。

「いっそのこと早くこの悪夢を食べてくれないかな」

と、僕はバクに訊ねてみた。

「それはできないネ」とバクは答えた。

まるで紳士気取りのバクは、優雅に口の端をニヤリとほころばし、つぶらな瞳を細めてみせた。

「僕が食べるのは、青々とした美味しそうな夢だけだからネ」

「言い伝えでは悪夢を食べてくれるって書いてあるけど」

「人間の勝手な思いこみだろ」

「本当は美食家なんだ」

「そりゃそうサ」

「怪しいもんだけど」

「考えてもみなヨ。毒々しい夢が美味しいと思うかい」

「格別だろう」

「まぁそう言うヤツも居るかもネ。でも僕はご免だな」

そう言ってバクは、慣れた手つきで僕の紅茶に手を伸ばした。