冷たい空気で満たされる車のなか。 寒い、とは思わなかった。 逆にこの冷気が、あたしを勇気づけているようにも思えたんだ。 「ただいま」 奏汰が一緒にいることを悟られないように、あたしは普段どおりに言いながら玄関のドアを開けた。 「おかえりー」 パタパタとスリッパの音をさせながら、こちらに近づいてくるお母さん。 にこやかだった顔が、あたしの後ろにいる奏汰を見た瞬間、一気に崩れた。 「……こんにちは」