それ以上なにも言わず、俺は柚の前から立ち去った。 背後で聞こえる、柚のすすり泣く声。 ズキンと胸が痛み出す。 ――はじめて柚の家に行ったとき。 ほんの僅かな時間だったけれど……。 とても幸せな家庭なんだなって思った。 そんな柚の幸せな日常を、壊したくなかったんだ。 お母さんが柚羽さんの親友じゃなかったら。 俺は、「昔のことなんか関係ない」と、迷わず柚を選んだだろうけど……。 すべてを知ったいまは、そうもいかなくなったんだ――。