「奏汰には奏汰の生活があるから、あんまり誘うと悪いかなって思って」



あたしと付き合う前の奏汰の生活。

それを、『彼女』というあたしの存在によって崩したくないと思っていた。



「なんだよ、それ」



夕暮れの【来来軒】の前。

夕日に照らされた、長く伸びたあたしと奏汰の影。


これからバイトに入る奏汰は、出勤前の一服をしている。



「俺ら、付き合ってんだろ? 遠慮すんなよ」


「……うん」



こくりと頷くと、奏汰はタバコを口にくわえたまま、笑ってあたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。