ナツキは夏の夜風に気持ちよさそうに吹かれている。 顔を外に向けたまま、感情のこもらない声で言う。 「あたしはしばらく色んな人の家を転々としてるの。帰る場所、ないから」 そう言ってナツキはまたゴクゴクとコーラを飲んだ。 何でもないことみたいに。 平気だと言うように。 俺はナツキを傷つけてしまわないかと、若干不安になりながらもまた聞いた。 「家族は?」 髪についた埃を落とすように、首を小さく振るナツキ。 「婚約者が居たけど、もう居ない」 その夜、俺が聞けたのはそこまでだった。