「そこ、まだ見てないよね。 先に開けとく?」
「これだね、おっけー」
奏を誘導して、無駄に手番を終わらせる。
あとは、この男のみ。
だが、
この男が、ここで裏切る可能性もある。
油断はできない。
「えっと・・・」
男は、思い出しながら、それでもある程度の確信があるように、
ひとつペアをつくる。
ぞくりと背筋が粟立つ。
最悪のシナリオ。
もしも、このまま全てめくられたら。
いや。
振り払う。
そんなことは、ない。
あと、16枚もある。
覚えられない、はず。
目の前で、もう1つそろう。
これで男がトップになった。
脊髄に冷たい液体を垂らされたような。
心臓に重たい固体を詰められたような。
肺胞に煙たい気体を込められたような。
圧迫感
逼迫感
切迫感
緊迫感
男の指先を睨みながら、願う。
そこはダメだ。
それは、正解だ。
迷いない動きで、カードが表返る。
「さて、ここで終わればいいんですよね?」
男が言う。
そう、それで、いいはず。
しかし、まったく納得ができない。
言葉が上滑りする。
思ってもないことを口にしていると、はっきりと分かった。
この男は裏切る。
「わざとはずせば、いいんですよね?」
中央のカードをめくる。
そして、流れるように右端へ。
正解だ。
ペアができてしまう。
それは、ダメだ!!
負けてしまう。
死にたくない。
意味もなく眼をきゅっと閉じた。



