「こんなことを考え出したのは、どこの馬鹿なんだろうね……」


頭の中が、ぐちゃぐちゃのまま呟く。


「馬鹿じゃないでしょ。本灘(ほんなだ)コーポレーションの創設者、本灘さん」

対戦相手は、晶の発言を訂正した。


いつもとあまり変わらない、彼女のトーンに、わずかだが冷静になる。


先程の、壁のモニターからの説明を思い出す。


このゲーム。

トランプをして、勝ち残れば大金を手に入れることができるという。

なんとも大盤振る舞いなことだ。

負ければ、ちょっとした罰ゲームがあるというところも、気になるが。





「そういう賢いやつの馬鹿な行動が、一番厄介なんだよね」

わざとらしく肩をすくめる。

テーブルの向こうに座る楓【かえで】が、くすくす笑いながら、何の気なしに、カードを取っていく。



「言えてる、でも、貰えるものは貰っとこうよ」

「だね」



晶は、もう貰う気になっている許嫁(いいなづけ)に対して薄く笑った。




「相手が晶だからって、私は勝負事で負ける気はないよ」



せめて、対戦相手が見知らぬ他人ならば、もう少し緊張感があっただろうか。

テーブルの向こうに座る付き合いの長い相手に言われて考える。





負ける気も何も、ルールが分からない。

いや、ババ抜きのルールは知っている。

そこではなく。



こんな、駆け引きの薄いゲーム。

ほとんど運でしかない。


じゃんけんと同じだ。

こんなことをやらせるメリットは、なんだ。



そして、こんなことに金を払うメリットは、なんだ。

おそらく、この机の上に置いてあったトランプすら特注品だろう。

この部屋だってそうだ。
机と、モニターと、監視カメラ。
あと、明らかに重たそうな金属製の扉がひとつ。

ただ、ゲームをさせるだけの部屋にしては、金がかかりすぎている。




どうにも、嫌な予感がする。

正体不明の気持ち悪さが、首元にまとわりつく。

しかし、それも関係ない。









自分が負ける結末は変わらないのだから。