「パス」 2つ。 その2つの音が、頭の中で、意味のある単語になるまで、時間がかかった。 『パス』 モノトーンの世界が、一斉に色彩を取り戻す。 忘れていた、呼吸を思い出す。 そんなバカな、あり得るはずがない。 意味がわからない。 どういうことだ。 しかし、 誠の 脳は、 体は、 喉は、 本能は、 乾きで開かなくなった唇を、 無理にこじ開けた。 皮が裂け、 小さい痛みの走る、 血の滲んだ口で、 ただ2文字を、唱えた。 「パス」