──春休みを迎えた。



あれから俺は、一度も歌に触れていない。



歌いたくないわけじゃない。

ただ、まだあの時のライブの余韻に、浸っていたいんだ。



春休み、ごろーりごろり、なにをするでもなくただライブを思い出していたところに。


ぴろり~んと軽い電子音に、次いで聞こえたピンポーンの音。





「来たのか……」



相変わらず、こんなことする奴は俺の知ってる中で一人しかいない。



ケータイも見ずにガチャリと玄関の扉を開けば、そこにはやっぱり、彼女がいた。



「家出か?」



そう聞けば、彼女はコクリ、頷く。



「ウサギさん」

「なに?」

「一緒に……旅にでよう!」



菅原の爆弾発言に、俺の記憶は数分ぶっ飛んだ。





それから、部屋に入れた菅原から聞いた話は、こうだった。

まぁ、例の如く喧嘩したらしい。

しかも俺と菅原の仲について。



『特殊な関係なんだから、このままじゃ要さんがどっか転がってくかもしれない!』らしい。

そうなると、颯の方が困るらしい。

困らなくていいし、俺がどっか転がることもない。