「……む、もうこんな時間か。
 行くぞ、桃香。」

将兄はちらりと腕時計に目をやって、
スタスタと歩きだした。


「あ、待って将兄!!」

私が呼び止めると彼は少し離れたところで立ち止まる。

走って横に並ぶと、再び歩きだした。


……さっきよりも、少し遅いスピードで。

決して口には出さないけど、
私に合わせてくれてるとわかる。

歩幅が違うから私の方が遅くて当たり前なのに、わざわざ並んで歩いてくれる将兄。

そんなさりげない優しさが嬉しくて、
自然と顔を綻ばせてしまう。


「ん?何を笑ってるんだ?」

「べっつにー」

「……?おかしな奴だな」


将兄は、私がなんで笑ってるのか全く気付いてない。

まぁ、当然っちゃ当然か。

私に優しくしてることでさえ、
無意識かもしれないし。




………あれ?


「将兄、柊也くんは?」

私達が歩きだした辺りから、
姿が見えないような……


「柊也ならついさっき、忘れ物をしたと言って教室に戻ったぞ」

「え゙…いつの間に」


全然気付かなかった。

にしても、神出鬼没なところはやっぱり我が家の長男と似てるなぁ。

ボンヤリとそんなことを考えながら歩いていると、私達の戦場が視界に入った。




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