兄さんは、俺の気持ちを知らない。
俺が桃香を妹以上に思っているという概念すらないだろう。
…………それなのに。
さっき言われた言葉一つ一つが、ナイフのように俺の心に突き刺さった。
感情も、考えも………
存在さえも否定されたような、そんな気がした。
「桃香が男と楽しそうに歩いてんの見た時は、やっと兄離れかぁ〜って、寂しい反面ちょっと嬉しかったんだよな。
でも、あいつに彼氏はまだ早いか」
笑いながら言って、兄さんはキッチンに向かった。
「お前も何か飲むか?」
「……いや、良い。
俺も、そろそろ部屋に戻る」
部屋で、頭を冷やさなければならんな。
そう思い、兄さんに背を向けて歩きだした。
「………将」
「………なんだ?」
「俺はお前達の間に何があったか知らないけど……今は桃香の傍にいてやれよ。
あいつ今日の朝、すげー悲しそうだったぞ。」
「………わかった」
桃香の悲しそうな顔が、脳裏に浮かぶ。
俺が良かれと思ってした行動が、桃香を悲しませていたなんて。
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