この胸いっぱいの愛を。






「将兄、待って!」


今一番顔を合わせたくない当人に、呼び止められてしまった。

無視するわけにもいかず、できるだけ平静を装って振り向く。


「どうかしたか?」

意識しすぎて棒読みになってしまったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「あ、あのさ………」

桃香が珍しく言葉に詰まっている。

俺は彼女をじっと見つめて、次の言葉を待った。




「えっと、その………
 自主連とか、無理しすぎないようにね!
 定期試験も、大事だし……」

「?……あぁ、そうだな」


何をそんなに焦っているのだろう。

それに、俺がテニスばかりに打ち込んで勉強を疎かにするような性格じゃないことは、彼女もよく知っているだろうに。

俺は彼女の真意がわからないまま、ただただ立ち尽くしていた。


「じゃあ、私部屋に戻るね!」

そして、俺の前を通り過ぎる桃香。






「も、桃香!」

「ん?」

気付いたら俺は、階段に足を掛けた桃香を呼び止めていた。




「その……ありがとう、な。
 心配してくれて……」

途切れ途切れだが、なんとか伝えられたことにホッと胸を撫で下ろす。

桃香は一瞬キョトンとしたが、すぐにいつもの笑顔に戻って、

「お兄ちゃんを心配するのは、妹として当然のことでしょ!」

と、得意げに言った。




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