この胸いっぱいの愛を。




俺がリビングに着いて、テレビを点けようとリモコンを手に取った時。




「ただいまー」

ガチャリ、と玄関の扉が開く音がして、桃香の声が聞こえた。






「あ、将兄……」

「……おかえり、桃香」


なんとなく顔を合わせづらくて、俺はテレビの方を向いたまま告げた。

いつになく重い空気が、辺りを包んでいる。


桃香は何も言おうとしない。

俺が顔を背けているから、今どんな表情をしているかもわからない。


………怒っているのだろうか。

朝も帰りも、何も言わずに俺が先に行ってしまったことを。


そうだとしたら、少し嬉しい。

不謹慎でも、そう思わずにはいられない。


だって、俺のことが本当にどうでも良かったら、俺が勝手に学校に行こうが一人で帰ろうが、何とも思わないだろうから。

機嫌が悪くなるのは、俺に置いていかれたことを少しは気にしている証拠だから。


何でも良い……些細なことでも良いから、桃香に嫌われていないという証拠が欲しかった。




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