〜将一郎side〜




「………遅いな」

俺が家に着いてからしばらく経ったが、桃香が帰ってくる気配はない。

壁に掛けてある時計を見る。




「………まだ15分」

自分が帰宅してから、まだ15分しか経っていないことに気が付いた。

もう一時間も待ったような気になっていた自分が、恥ずかしく思えてくる。


────桃香のいない時間は、こんなにも長いのか。




自分で彼女を避けておきながら、後悔の念が沸々と湧いてくるのを感じた。

……こんなことなら、いつものように一緒に帰宅すれば良かった、と。




「情けないな、俺は……」

やるせなさに、自然とため息が漏れる。


自分から、桃香を避けていたくせに。

それがこんなにも辛いことだなんて、知らなかった。

昨日まで普通に話せていた自分に、懐かしさすら憶える。


いつかはあの笑顔も、誰かのモノになってしまうのだろうか。

そう考えると、視界が涙で滲んだ。






─────いつから俺は、こんなに涙もろくなったんだ。




手元にあったティッシュで慌てて涙を拭い去り、俺は行き場のない想いを抱えたまま、部屋を出た。




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