「今日は中間考査前の最後の部活だ!
気を引き締めて取り組むように!」
「「「はい!!!!」」」
テニスコートいっぱいに響く部員達の声。
将兄がそれぞれの学年にやることを指示すると、みんなが一斉に動きだした。
私は………
とりあえず、タオルでも用意しようかな。
─────そういえば、今日は将兄と一度も会話をしてない。
いつもなら、考えられないことだ。
将兄が先に学校に行くのを見送った祐兄にも、「喧嘩したの?」って心配されたくらい。
ホントは、祐兄に昨日のことを言うべきか、一瞬迷った。
でも、言わなかった。
なんでかわかんないけど、言ってはいけないことのような気がしたから。
昨日見たことは、私の心の中に留めておこうと思った。
開くことのないように、鍵をかけて。
その鍵も、深い海の底に沈めてしまおう。
──────そう誓ったんだ。
「あ、……将兄だ」
将兄が、私の目の前を通り過ぎた。
いつもなら何かしら声を掛けてくれるのに、今日は何も言ってくれない。
まるで私なんて視界に入ってないかのように、目を合わせることもなく去っていった。
───────チクッ。
「?何だろ、この気持ち…」
胸の奥に、針で刺されたような痛み。
ほんの一瞬だったけど、それは確かに初めて感じた気持ちだった。
.